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神戸地方裁判所 平成7年(行ク)6号 決定

主文

本件申立をいずれも却下する。

申立費用は申立人らの負担とする。

理由

一  申立人らの本件各申立ての趣旨及び理由は、別紙申立書、申立の理由補充書及び申立人らの意見書記載のとおりであり、これに対する被申立人らの意見は、別紙被申立人らの意見書記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

1  一件記録によると、次の事実が一応認められる。

(一)  被申立人兵庫県阪神県民局長は、株式会社朝日住建が、宝塚市切畑字長尾山一一番七五ほかの土地の別図の甲区域(但し、別図ではその一部が表示されている。)約八五〇九六平方メートル(以下「本件開発地域」という。)について、合計七〇五戸の集合住宅建築を目的とする開発計画(以下「本件開発計画」という。)を実施するために、都市計画法二九条に基づく開発行為の許可の申請をしたのに対し、昭和六二年三月三一日付け兵庫県指令阪県第一―一八号(阪六一)をもって、開発行為の許可処分をした。

(二)  被申立人兵庫県神戸農林事務所長は、株式会社朝日住建が、本件開発地域を含む別図の乙区域について、本件開発計画に関する森林法一〇条の二に基づく開発行為の許可の申請をしたのに対し、昭和六二年七月三一日付け兵庫県指令六二神農林第一八六―一四―二号をもって開発行為の許可処分をした。

(以下(一)、(二)の処分を併せて、単に「本件処分」という。)

(三)  申立人らは、いずれも本件開発地域の南西側に隣接する泉が丘住宅団地に居住する者で、既に当庁に被申立人らを被告として、本件処分の取消しを求める訴え(当庁昭和六十二年(行ウ)第四四号事件)を提起している。

2  申立人適格について

(一)  行政事件訴訟法二五条二項に定める執行停止申立事件について、申立人適格を有するのは、処分の取消しを求める本案訴訟において「法律上の利益を有する者」(同法九条)であり、この「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうと解すべきである。

そして、当該処分を定めた行政法規が、その趣旨・目的・当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質からみて、不特定多数者の具体的利益を、単に一般的公益としてだけではなく、それが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨に解される場合には、この利益も法律上保護された利益に当たると解すべきである。

したがって、当該処分によりこの個別的利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の執行停止における申立人適格を有するというべきである。

(二)  右の見地から、申立人らに、本件各申立てをするにつき法律上保護された利益があるか否かを検討する。

(1) 【要旨一】都市計画法二九条の開発行為の許可処分についてみるに、同法一条が、「都市の健全な発展と秩序ある整備を図り、もって国土の均衡ある発展と公共の福祉の増進に寄与すること」と規定し、同法二条は、「健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保すべきこと」と規定していることから同法は一般的公益の保護を目的としていると解される。

しかし、同法三三条一項は、開発許可ができない事由を定め、その中に、「排水路その他の排水施設が、(中略)下水を有効に排水するとともに、その排出によって開発区域及びその周辺の地域に溢水等により被害が生じないような構造及び能力で適当に配置されるように設計が定められていること」(三号)、「開発区域内の土地が、地盤の軟弱な土地、がけ崩れ又は出水のおそれが多い土地その他これらに類する土地であるときは、地盤の改良、擁壁の設置等安全上必要な措置が講ぜられるよう設計が定められていること」(七号)を掲げている。

右の各規定からすると、同法は、溢水、がけ崩れ又は出水などの災害により被害を受けるおそれのある周辺地域に関係する者の利益を、一般的公益としてだけではなく、個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨をも含むものと解する余地がある。

(2) また、森林法一〇条の二の開発許可処分についてみるに、同法一条が、「森林の保続培養と森林生産力の増進とを図り、もって国土の保全と国民の経済の発展に資すること」と規定していることからみて、同法は一般的公益の保護を目的としていると解される。

しかし、同法一〇条の二第二項は、開発許可ができない理由として、「当該開発行為をする森林の現に有する土地に関する災害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域において土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがあること」(一号)、「当該開発行為をする森林の現に有する水害のかん養の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水の確保に著しい支障を及ぼすおそれがあること」(二号)を掲げている。

右の各規定からみると、同法は、土砂の流出又は崩壊などの災害により被害を受けるおそれのある周辺の地域に関係する者の具体的利益を、一般的公益としてのみではなく、個々人の個別的利益としても保護する趣旨をも含むと解する余地がある。

(3) そして、疎明資料によれば、本件開発地域が南西向きの傾斜地であり、かつ、申立人らが本件開発地域の南西側に隣接する泉が丘住宅地に居住していることが一応認められる。そこで、仮に、本件処分がこれらの開発許可の基準に反する違法なものであるとすれば、これに基づく開発行為がなされると、本件開発地域内の土砂の流出又は崩壊、溢水などの災害によって、申立人らは、その生命、身体、財産を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあるといえる。

(4) したがって、申立人らは、都市計画法や森林法によって保護される具体的利益を個別に有しており、本件処分によりこの利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがある者であるという余地がある。

(三)  よって、申立人らに、本件各申立につき申立人適格がないとまではいえない。

3  回復の困難な損害を避けるための緊急の必要について

(一)  申立人らは、本件開発地域が急傾斜地であり、地盤、地質などからみて、斜面崩壊、土砂流出、溢水などの危険があるにもかかわらず、本件開発計画は、この危険を十分に把握しておらず、これに対する安全施策も不十分なものであるから、本件処分に基づく開発行為により、周辺住民である申立人らは、生命、身体、財産に回復の困難な損害を被るおそれがあり、これを避ける緊急の必要がある旨主張するので、検討する。

(二)  本件開発地域の危険性について

(1) 【要旨二】本件開発地域内の地盤や地質について検討するに、〔証拠略〕によれば、本件開発地域全体が傾斜地であり、その周辺全体が南に向いた流れ盤構造になっていること、本件開発地域の南側に有馬―高槻構造線という大規模な活断層があり、これに派生する断層、破砕帯が本件開発地域内にあること、本件開発地域の多くを占める大阪層群には、水を含みやすい礫層が多く含まれており、また、水を含み軟弱とされる粘土質層が挟まっていること、本件開発地域の周辺部にある有馬層群は凝灰岩層を含むこと、本件開発地域内には斜面が崩れて地肌が大きく露出した所が数か所あること、本件開発地域内の谷底部には崩れ落ちた土砂が堆積してできる崩積土層があることが一応認められる。

しかし、〔証拠略〕によれば、株式会社朝日住建の報告書では、大阪層群は締まりがよくボーリング調査による地盤の密度を示すN値も高い数値を示していること、大阪層群には地下水の上昇、断層の変動など地すべりを暗示するような動きが認められないこと、断層や破砕帯による地形や地下水の変動への影響が認められないこと、有馬層群における水位の上昇は、雨量の多い時期でも少ないことから、地下水の上昇により地盤が軟化するおそれは少ないこと、斜面が崩壊し地肌が露出している場所も多くは表層部分が崩壊したにとどまっており、その原因も人為的に切り取られた所が放置されたためであると、報告されていることが一応認められ、また、本件開発地域から申立人らが居住する地域に向かう部分は流れ盤構造になっておらず、この構造が申立人らの災害の原因にならないとみる余地が多分にあること、崩積土層は、本件開発工事により取り除かれ、その際に対策工事がなされる予定であることが一応認められる。

したがって、本件開発地域内の地形、地盤及び地質からみて、申立人らに回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとまではいえない。

(2) また、〔証拠略〕によれば、平成七年一月に発生した阪神・淡路大震災により、申立人らの居住地域では地面に亀裂が生じ、兵庫県西宮市仁川百合野町では建物の地盤が崩れるなどの被害が生じていることが一応認められる。

しかし、〔証拠略〕によれば、これらの地域と本件開発地域とは、地形、地盤、地質などの状況が異なること、本件開発地域内で、阪神・淡路大震災によってこのような被害が生じなかったことが一応認められ、これに反する疎明はないことからみて、これらの被害状況から直ちに本件開発地域が回復の困難な損害を被るおそれがあるということができない。

(3) したがって、本件開発地域の状況からみて、申立人らに回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとまではいえない。

(三)  本件開発計画の危険性について

(1) 斜面崩壊、土砂流出のおそれについて検討するに、〔証拠略〕によれば、本件開発計画では、本件開発区域内の礫混土を盛土に使用し、また、高さ約一〇メートル前後に及ぶ擁壁が多数築造されることが一応認められる。

しかし〔証拠略〕によれば、本件開発区域内の礫混土を盛土として使用しても、盛土材特殊圧縮試験の結果、転出が施工されれば、問題がないと報告されたことが一応認められる。

また、〔証拠略〕によれば、盛土法面や現状斜面の通常時及び地震時における安定性については、礫暗渠や管暗渠といった排水工や、排土置換工及びフトンかご工法といった抑制対策工などの対策工事を行った場合に、一般的に認められている計算方法により計算した結果、安全であると判断されたこと、斜面を切り崩した後の法面について、植生による保護及び表面水や湧水の排水対策などの安全策がとられる予定であること、擁壁の通常時及び地震時の安全性についても、それぞれの擁壁について、構造基準に照らして検討した結果、安全であると判断されていること、開発工事中は流砂土砂量に応じたえん堤、沈砂池を設け、開発工事終了後も恒久的な沈砂池を設ける予定であり、土砂流出の災害が生じないものと判断されていることが一応認められる。

(2) また、溢水のおそれについても、〔証拠略〕によれば、本件開発計画で設置が予定されている排水施設について、一般的に用いられている計算方法により、本件開発地域内の雨水及び汚水を有効に排出できると判断されていること、本件開発地域から流出する水量とその経路についても、下流の流下能力を超えないと判断され、さらに流出水量を軽減するために洪水調節池の設置が予定されていることが一応認められる。

(3) したがって、本件開発計画の内容からみて、申立人らに回復の困難な損害が生じるおそれを避けるための緊急の必要があるとまではいえない。

(四)  さらに、〔証拠略〕によれば、株式会社朝日住建が、申立人らに対し、平成六年に本件処分に基づく開発工事を開始したい旨申し出たことが一応認められる。

しかし、本件処分からこの申し出まで約七年が経過していること。この申出の後から現在までの間に、右会社が工事を開始したと認めるに足りる疎明はないことからみて、本件開発行為が行われるために、申立人らに回復の困難な損害が生じ、これを避ける緊急の必要があるとまではいえない。

(五)  以上のとおりであって、申立人らの主張は、行政事件訴訟法二五条二項の「処分(中略)により生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」の要件を充たさないものというべきである。

4  結論

よって、その余の点について判断するまでもなく、申立人らの本件各申立ては、いずれも理由がないからこれを却下することとし、申立費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 辻忠雄 裁判官 下村眞美 細川二朗)

別図

<省略>

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